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肺MAC症
2023/03/17
そのほか
こんにちは、にこにこスタッフ森田です。
発展途上国を中心に薬剤耐性菌の広がりが問題となっています。
細菌感染症の治療には抗菌薬が用いられます。抗菌薬が開発された当初は大変効果が高かったのですが、徐々に耐性をもつ細菌〔薬剤耐性菌〕が現れました。
新型コロナウイルスは次々と変異を繰り返すことにより、一度獲得した免疫をすり抜け再感染することが問題となっています。同様に細菌も変異することにより、それまで効果のあった抗菌薬に対して耐性をもつ個体が現れました。
それでは困るため研究により新たな抗菌薬が発見・開発されているのですが、しばらくするとその新しい抗菌薬に対しても耐性をもつ細菌が出現し、いたちごっこの状態が続いています。
また複数の抗菌薬に対して耐性をもつ〔多剤耐性菌〕が更に大きな問題となっています。
高齢者や基礎疾患で免疫が低下している人が多剤耐性菌に感染すると、自身の免疫により細菌を排除することができないため投薬が必要となるのですが、使用できる抗菌薬が限られ充分な治療をおこなうことができません。そのため重症化し亡くなることも少なくないそうです。
薬剤/多剤耐性菌はいくつもの種類の細菌で見つかっています。大腸菌や緑膿菌・黄色ブドウ球菌などの他に結核菌でも確認されています。
結核は過去に大きな被害をもたらした疾患というイメージがありますが、現在の日本でも年間1万人以上が罹患しています。昔より治療法は多くあるのですが、それでも年間およそ2000人が亡くなっています。
結核は感染力が強く現在も2類感染症に指定されています。
その結核と似た症状を引きおこすMACとよばれる細菌が存在します。このあまり聞きなれない細菌が肺に感染することで発症する『肺MAC症』の患者がここ数年増加しています。
結核菌のような強い感染力はなく、人から人への感染はないとされています。ただしこのMAC菌は身の回りの様々な場所に生息しています。風呂場や土の中にもいますので、入浴時や風呂掃除・ガーデニング・枯葉の掃除など、多くの人が日常的にMAC菌に曝露していると考えられています。しかし実際に感染し『肺MAC症』を発症する人はごく一部です。
症状は結核と似ているのですが、基本的にはゆっくりと進行します。初期段階では無症状・軽症が多く、進行にしたがい長引く咳や痰・発熱などが表れます。更に症状が進行すると血痰・体重減少がみられることがあります。
軽症では経過観察の場合もあります。急激に悪化するような疾患ではないのですが、特効薬がないため薬による治療が難しいとされています。
現在は結核用の抗菌薬などが用いられ、2年前後にわたり長期間飲み続ける必要があります。また一度改善した後、再発(再感染?)することが少なくないようです。
『肺MAC症』は以前は他の肺疾患の既往歴のある人に多かったのですが、近年は既往歴のない女性の患者が多くなっています。まだ詳しい原因はよくわかっていないようです。免疫状態に関係なく健康な人でも感染しているため、「体質とMAC菌への感染しやすさとの関係性」を調べる研究がおこなわれています。
MAC菌は身の回りの様々な場所に生息していますので、感染予防はとても困難です。感染には免疫状態は関係ないと考えられていますが、発症後は体力や免疫力などの健康状態が大きく影響しますので、健康であるに越したことはありません。
長期にわたり咳や痰などの症状が続く場合には、他の疾患との鑑別も含め病院を受診することが大切です。